Escher X nendo | Between Two Worlds

  • 2018.12
for ビクトリア国立美術館

メルボルンのビクトリア国立美術館で4ヶ月間に渡って開催された、20世紀を代表するアーティスト M.C. エッシャー(1898-1972)とnendoによる2人展。
数学的なアプローチから生み出される、錯視を利用した作風で知られるエッシャーの作品157点とそこからインスピレーションを得てnendoが手がけた空間やオブジェが一体的に展示されるという主旨で、オランダのデン・ハーグ美術館とエッシャー財団の全面協力のもと行われた。
同美術館にとって、これは2015年に開催された「アンディ・ウォーホル × アイ・ウェイウェイ」に続くコラボレーション企画となる。

まずは美術館の学芸員チームとともにエッシャーの作品群の分類方法が入念に検討されたが、従来の時系列に沿った並べ方や、作品のコンセプトや技法による グルーピングの仕方ではなく、これらを融合した、いわば「エッシャーの思考の変遷」をイメージした構成となった。展示スペースは大小様々な9つの空間からなり、それぞれの作品分類テーマに合わせてデザインが進められた。
その際、エッシャーの作品には「人」や「動物」、「虫」といったアイコンが「作品の案内人」としてたびたび登場することから、「展示の案内人」として「家型」をアイコン化することに。また、展示されるエッシャーの作品がいずれも「3次元的な2次元表現」であるため、空間を構成する要素はできるだけ「2次元的な3次元表現」とすることを心がけた。
さらに、エッシャーの表現手法を意識し、色彩は一切使用しない「白・黒・グレー」の3色のみとし、光や影、反射などの手法を積極的に取り入れた。

01 the form of a house
17メートルの細長いアプローチ空間の床に照射された映像表現。まるで砂時計のように、細かい粒子の群れが流れながら来場者を奥の空間へと誘う。
「点」はやがて「線」となり、「面」そして「家型」へと緩やかに構築されていく。

02 arising house
まだエッシャーの作風が確立しきっていない初期の風景画や人物画といった作品のための展示室。この様子を表すために、家型が徐々に「生まれつつ」あるような形をしたベンチを展示室の中央に配した。
ベンチの反対側は「家型以外」の箇所が分離されていくことで逆に家型が残り、これによってベンチの左右と表裏で互いの関係性が反転した表現となっている。

03 reflection house
エッシャーが「反射」や「屈折」、そして両者を多層的に組み合わせた表現に興味が惹かれていく様子がわかる作品を展示。
空間や作品の配置はできる限りシンメトリーにすることで「反射」を表現。水をモチーフにした作品群は壁ではなく、エッシャーが見ていたのと同じ目線を意識した水平の展示台を使い、奥に進むほどに「水滴 → 水たまり → 池」という具合に、水の深度が深くなっていくように並べた。
さらに、「目に映り込んだ骸骨」をテーマにした作品が左右の目でそれぞれ一点ずつあったため、それぞれを壁の左右に配置し、まるで来場者がエッシャーに覗かれているような、遊び心も加えた。最後に、部分的に切り欠かれたミラーを使い、「光と影が組み合わさってできた家型」が壁面に浮かび上がるインスタレーションを用意した。

04 transforming house
エッシャーの有名な「図と地の反転」をテーマとした作品を17点集積した展示空間。
階段を昇っていくと、高さ3mのところに位置した展望デッキのようなギャラリーがあり、奥行き60mの空間に家型が整然と並んでいる様子を見渡すことができる。
そして、緩やかなスロープを降り、家型の中やその周囲を自由に歩き回ることで、作品が次々と出現するような空間体験が待ち受けている。ここに置かれた作品の多くは規則的な反復パターンのため、天地を逆にしても鑑賞ができることから、水平に展示することで複数の向きから楽しめるようになっている。
また、この空間をまっすぐに歩いていくと、最初は「外が黒く、内が白い家型」の「中」を歩いていたはずが、いつの間にか「外が白く、内が黒い家型」の「外」を歩いている、という複数の「図と地の反転」が起きていることに気づく。

05 house in perspective
複数の異なる「視点」に注目し、矛盾を孕んだ遠近法が生み出す空間を描いた作品16点。
展示空間内には部分的に折れていたり、途切れている黒い線材をランダムに林立させ、そこを浮遊させるように作品を点在させた。特定の「視点」に立つと線材同士が重なり合い、「家型」が浮かび上がって見える仕掛けも。

06 zooming house
05と07を繋ぐ、廊下状の空間に設置した、長さ21mの家型オブジェ。
手前は高さが4mありながら、一番奥はわずか50cmしかなく、遠近感をさらに強調する。また、白と黒を交互に塗り分けることで空間にリズムが生まれ、終盤に向けての来場者の高揚感を助長してくれることに期待した。

07 house of movement
これまでの平面的な幾何学表現から、「対照(秩序と混沌)」(1950)をはじめとする多面体や分子の構造体を思わせる三次元的幾何学形体、重力の存在を感じさせる作品6点を展示。
02にも似た、ある種の過渡期と捉え、白い壁面に作品を配したシンプルな構成でありながら、角度や配置などをバラけさせることで空間にある種の不安定さをもたらすことを意識した。そして、半立体の幾何学的なタイル状のオブジェにプロジェクションマッピングを施し、家型の方向や奥行きを変化させながら生成と消滅を繰り返す表現によって、2次元と3次元の狭間で揺らぐ様子を表した。

08 gathered house
「03 反射」「04 図と地の反転」「05 歪んだ遠近感」「07 三次元的な構造体」という4つの要素が、互いに複雑に絡みあいながら無限に循環し続けているような、まさに集大成とも呼ぶべき作品17点を展示。
この「無限ループ」している様子を体現するために円形の展示空間とし、中央には直径5mのシャンデリア状のオブジェを吊った。
オブジェは「表が白、裏が黒」に塗り分けられた平らな家型が約55,000個連なって出来ており、 部分的に反転させることによって中央に立体的な家型が浮かび上がるようになっている。また、裏に回り込むと白黒が切り替わるため、来場者はグルグルと展示空間内をループするように歩き回わらないとオブジェの全体像が把握できないようになっている。

09 snake house
エッシャーの遺作「蛇」(1969年)のための展示室。
80cm持ち上げられた床から、クネクネと曲がった通路のところだけが削り取られている。この通路の側面には折り返すような傾斜があり、これもまた「家型」を引き伸ばしたような通路であることがわかる。
また、この曲線は、120度の角度で接している複数の円を繋ぐことで出来ており、作品と全く同じ法則で作られている。途中には製作過程のスケッチが展示され、同様に120度の角度に配置したミラーを上に設置することで、エッシャーが製作途中に頭に思い描いてた状態をそれとなく感じ取れるようにした。最後は通路がグルリと巻きつくようにしてエッシャーの遺作が中央に展示された。

以上の9つの空間によって一連のストーリーが構成されているが、「描く手」(1948年)のベースとなった手がひとつだけ描かれた作品を一番最初に展示し、 2つの手がお互いを描いている「描く手」を一番最後にあしらった。この2作品で全体を挟むことによって、本展示のコンセプトを際立たせられると考えた。

なお、展示スペースの前後にはカフェとギャラリーがあり、カフェは向きの異なる複数の家型をモチーフにしたグラフィックパターンでラッピングしたデザインに。ギャラリーには、デザインを検討するのに使われた多数の模型を元に製作した11個のオブジェが展示された。