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江戸宝暦年間から250年以上に渡り、代々が小川治兵衞の名跡で作庭を手がけてきた京都の「御庭植治」。
次期十二代となる小川勝章氏の発案により、庭園の魅力を屋外空間に限定することなく、
屋内に取り入れるというテーマが設定された。

日本庭園は、植物や石、流れる水、日光、風など、
様々な要素が常に変化しながらバランスを保ち続けることで成り立っている。
これら複雑な構成要素や状況を全て屋内に持ち込むには物理的な限界があるため、
この中で最も変化の速度が遅く、それ故に庭全体の「軸」になりうる「石」を抽出し、
その配置のさせ方を通じて「庭園らしさ」の一部を屋内に持ち込むことにした。

ただし、素のままの石を使うと屋内空間と乖離することから、
ここに「屋内らしさ」を添えるために、一般的に内装材として使用される木材と石の一部を部分的に切り替え、
さらに家具的要素としての小さな引出しを設えることで、屋内空間との親和性を高めたいと考えた。

まず、小川氏が3つの石を選定。
春日部石(京都府亀岡市産)は、赤石チャートと赤紫色苦灰石が交互に積層した荒々しい表情が特徴。
仁淀石(高知県仁淀川産)は、自然のままでコブ状のマーブル模様がある希少なもの。
もうひとつの仁淀石は、部分的に溶岩が纏わりついた火山の噴火口のような表情を持っている。
次に、3つの石を3Dスキャンし、そのデータを元にラジアタパイン材が5軸切削加工機と彫刻職人の手仕事によって削り出された。
彫刻刀やハンドリューター、サンドブラストなど様々な道具を駆使して、石の形状が表面の微細な凹凸まで完全に再現。
一方、石は60インチ中口径丸鋸によって切り出されたが、割れや欠けが生じると
全工程をはじめからやり直す必要があることから、細心の注意が払われた。
最後に、ベビーサンダーやニューマー(電動彫刻刀)を使って引出し部分が加工され、石と木部とともに一体化された。

このようにして生まれた3つの石は、
石を主体として鑑賞する「盆石」(盆の上で庭園を表現する伝統芸術のひとつ)とも異なる、
「室内そのものを庭園化するための石」としてデザインされたものとなった。

Collaborator:
Arata Nishikawa
Photographer:
Hiroshi Iwasaki