森の屋根ときのこ

建築家・西沢立衛とデザインオフィスnendoの協業によって生まれた、
京都造形芸術大学の敷地内に建てられた小さな休憩所。

計画地は植物がうっそうと茂る急傾斜面。天気の良い日には東山三十六峰の峰々が一望でき、
また、造成された隣接地には梅が植林される予定となっており、数年後の春にはまたひとつ楽しみが
増えることであろう。これらの要素を包み込むように、西沢氏はひとつの屋根を掛けることにした。

傾斜に柔らかく沿う屋根の下に潜り込むと、それが天井なのか壁なのかが曖昧な存在であることに気付く。
そして、その空間体験は、木々に覆われた山の中を歩いたときの記憶を思い起こさせる。
これまでの西沢氏の建築空間は明るい「野原」や「庭」のようであり、そこで用いられてきた家具は
まるで「野花」のように感じられるものが多かったように思う。内外部の境界を取り払う役目を果たしながら、
空間に彩りを与えてくれる「野花」の家具。一方、この崖地に荒々しく覆い被さる木造の構造体が
もたらす薄暗い空間には「野花」ではなく「きのこ」のほうが相応しいように思えた。

このような思考の過程からデザインされた「きのこ」のようなスツールは、職人の手仕事によって作られ、
ひとつひとつのサイズや形状がわずかに異なり、より自然に感じられるものとなった。
それを、木柱の根もと、石垣や階段の隅っこなど、「いかにもきのこが生えそう」な場所を探しながら
レイアウトしていった。さらに、手すりの一部がそのままきのこへと変質しているような
ディテールも加えることによって、「そこに置かれた家具」ではなく、
「どこからともなく生えてきた建築の一部」となることを目指した。

Places:
Kyoto
Client:
Kyoto University of Art and Design
Photographer:
Daici Ano
2013.10