TGV

滑らかに流れる川のような新型高速列車
Client :
SNCF Voyageurs
2025.03

1981年に運行を開始した、フランス国鉄(SNCF)が運営する超高速列車「TGV」。
フランス全域および国外の各都市を結ぶ「TGV」の、5代目となる新型列車の内外装デザイン計画。

2018年にスタートした本プロジェクトは、共同開発社であるALSTOMが新たに開発した世界で唯一の最高時速300km以上で走行する2階建て車両をベースに設計。
この新車両は、環境への負荷を軽減し、エネルギー効率に優れているだけでなく、
1等席とバー車両を含む編成では最大約650席を、
2等席のみの低価格な編成では約740席が提供可能と大容量な座席数も特徴。

鉄道は、自由な移動が可能な自動車や飛行機とは異なり、
さまざまな地形に沿う線路の上を流れるように進むことから、「流れる川」をコンセプトに。
川の滑らかな「流れ」や「深度」、川底の柔らかな「小石」の形状、
さらには水面の「浮遊感」や「泡」などをモチーフとして採用。

外観は、円形を分割し「波」を抽象化したようなデザインに。
ウォームグレーをベースに白とグレーで大きな波のような円を描き、周辺環境と柔らかく調和することを考えた。
車体の上下には、汚れやすく様々な点検口や排気口などがあることなどから、ダークグレーを「水平線」のように配置。
車両の出入り口には、ブランドカラーでもあるボルドーを配色。
車体とのコントラストも強く、視覚障害のある方にも乗車位置が分かりやすいデザインに。
車体のフロントは、窓やヘッドライトをブラックでまとめた。

外観同様、座席と車両内には同じ高さに「水平線」のような色の分割線が設けられ、
これによって座席と空間が統合されるだけでなく、インテリア空間に広がりが生まれることを考えた。
1等座席は、ボルドーやくすんだブリックレッドを組み合わせた暖色系を基調に、
マスタード・イエローをアクセントとして組み合わせた。
2等座席はネイビーをベースに、異なるトーンのブルーグレーを複数組み合わせ、ボルドーをアクセントに。
両座席とも川の深さのように、下にいくほど暗く、上にいくほど明るくなるような色味にした。

座席本体は、座ると包み込まれるようなシェル構造にし、
上下に可動するヘッドレストとランバーサポートは、どちらも「小石」をイメージした柔らかな形状となっている。
表面には新たに開発されたOctaspringと呼ばれる3Dニット素材を採用。
この素材は、耐久性に優れ、薄くて軽量な上、八角形状の構造体による適度なクッション性を持つ。
テーブルは、スマートフォンやドリンクなどを置くためのコンパクトなサイズと、
食事やデスクワークに適したサイズへの切り替えが可能。
さらに、フットレストやアームレストは、畳むことができるため、車椅子の乗り降りなどバリアフリー対応に。
リーディングライトやコートフック、アシストグリップなどの周辺アイテムも、「小石」に似た柔らかなフォルムで統一し、
照明には折りたたみテーブルに干渉しない背が高いタイプ、バー車両用の背の低いタイプ、
共用部の通路用の壁付けタイプと3種類のバリエーションがあり、それぞれ共通のシェードを使用した。
照明が内蔵されている座席上の荷物置きも同様の柔らかな形状で、
荷物の落下防止のバーは「浮遊感」を強調するために点で触れ合っているようなデザインに。

2階建てのバー車両は、1階が軽食や飲料を購入することができる売店エリア、
そして2階は飲食を楽しむためのスペースやリラックスできるラウンジエリアとなっている。
1階の売店エリアは、客室車両内と同様、「水平線」を意識したカラーリングに。
柔らかい形状のカウンターや棚は、「浮遊」しているようなディテールにとした。
2階のラウンジエリアは、まるで「河原の小石」のように、大きさの異なるベンチやクッションを様々な向きにランダムに配置。
一人で静かに過ごしたい乗客が快適に過ごせる空間でありながら、
複数人で会話を楽しむこともできるなど、様々な滞在スタイルやコミュニケーションを提供。
各車両の入口に配置されている大型荷物置場の棚や通気口などに使用されているパンチングメタルの穴は、まるで「湧き上がる気泡」のようなデザインに。

こうした、流れる川をイメージしたディテールの積み重ねによって、空間に居心地の良い柔らかさが生まれ、さらには快適な移動時間をもたらすことを考えた。

Client :
SNCF Voyageurs
2025.03
Collaborator :
AREP, multidisciplinary firm expert in mobility
Richard Bone
Photographer :
Yann Audic